Still Find Another Day To Smile

火星平原に出来た老人性血管腫

7, 8年ぐらい前から偶に赤い斑点が腕に出るようになった。医者に見てもらったが、「特段、気にすることはない」という。
ところが今回は手のひらの真ん中に出来てしまった。

赤い斑点はいわゆる「赤あざ」が思い浮かぶが、「赤あざ」にも、赤ちゃんに出来て、そのまま一生残ってしまうものと、打撲などの内出血で出来る物とが有名だと思われるが、私に出来ているのはそのどちらでもない老人性血管腫というものらしい。写真のように針で突いたような小ささである。
医者が気にすることはないというのだから増えても気にはしていないのだが変な場所に出来てしまって、別の意味で気になる。

火星平原に出来た老人性血管腫

火星平原は「人生そのもの」を表すという解釈があり、シミなどがあると「人生そのものが無価値」であるとされる。
血管腫が出来るのはやや凶相とのことなのだが、もはや若くないので今更「お前の人生は無意味」とか言われても自棄を起こす気力もない。
というか「やっぱりそうだわな」としか思えない。私みたいなタイプにだって、悔いはある。




君にとってそんな男になれずじまいでごめんなさい

次の話は誰にも話したことの無い話。
それは、大学の学部1回生の後期に入って2週間ほど経ったある日のことだった。
通学途上の電車で、途中の駅から隣のクラスの女子が隣の席に座って来た。
隣のクラスには女子は12名いたのだが、隣のクラスということもあり、いまだに半数程度しか名前を知らないのだが、彼女のことは知ってはいた。ただ、後期に入ってからは私と彼女は1コマも同じ授業がなくなっていた。どうでもいい話だが、記憶が正しければ、それ以降彼女と同じ授業を受けたのは「バイオプロセス工学」という授業だけだったと思う。
そんな訳で、彼女の顔を見るのも1ヶ月ぶりぐらいだった。
彼女は私の隣の席に座った後、少しためらった様子を見せたものの、意を決したように話しかけてきた。
彼女が隣の席に座ってきた時から彼女が話しかけてくることは既に予想の範囲内だった。もう1回目の夏も終わっているし、この先彼女と私が同じ授業を受けることも少なくなっていくのだから。ただ、彼女の動機は私の予想より切羽詰ったものだった。
彼女曰く、10日ほど前に、自宅で脳卒中の発作で倒れて先日まで入院していたのだが、今日、やっと外出許可が出て、久しぶりの登校になるのだという。
だが先に述べた通り、私と彼女は後期に入ってから1コマも同じ授業が無かったことと、うちのクラスと隣のクラスとはあまり交流も無かったことから、彼女が入院していることは知らずにいた。
彼女は、私が彼女が入院していたことすら知らなかったことに少し落胆した様子を見せたものの、彼女の容態を気遣う私の様子を見て、ある程度の成果を確信したようで、大学の最寄り駅に着く頃には彼女の表情も柔らかくなっていた。
大学のキャンパスに着いたところで彼女と同じクラス(かつ、彼女と高校から同級生)の女子3名と出会ったので、そこで彼女とは別れた。
彼女には実は体の皮膚の広範囲に血管腫があり、それを隠すために真夏でも長袖の服を着ていた。それらの血管腫の毛細血管に血を送り届けようと普段から高血圧気味だったらしく、20歳手前で脳内の血管が既にボロボロなのだという。即効性のある降圧剤がある現在と違い、当時は脳卒中の発作が起こってから1週間以内に再発する確率は90%近くあった。
当時、私は他に好きな女性がいるわけでもなかったため、そのまま彼女と付き合うつもりでいた。バイト先の同僚の女性に「指輪ってどうやって買うんですか?」と尋ねて「そんな事も知らないの?」と呆れられたりした。
マンガな恋の結末は、わかってしまったからだった。その後、何度か同伴出勤(?)したものの、結局、私の演技が下手だったのか、このまま彼女の病気を利用して私を引き止め続けることを彼女のプライドが許さなかったのか、彼女が「もういい」と言い出して、その関係は1ヶ月も経たないうちに終わってしまった。


なお、写真の手相は細い線が多数入っているが、手相を読める人の手相は、手相に頼りすぎないように、このように意味のない細い線でマスキングされて、手相が読み難くなるという。