行きずりの恋のふり ルージュに混ぜた

ガラスみたいにつきさして フィルムみたいに忘れない

学部2回生の時だったと思う。クラスの同級生が主催した合コンに行った。それが最初で、最後の合コンだった。
コンパの途中で幹事が、王様ゲームをやろうと言い出した。当時は王様ゲームが認知され始めた頃で、まだパーティーグッズとして王様ゲームのスティックは販売されていなかったため、幹事の奴が安い割り箸で自作してきた。ニヤニヤしながら作ったんだろうと思うと、微笑ましかった。
最初の3回は普通の数字のくじを引いたが、3回目に隣の席の奴が王様のくじを引いたので、そのくじをじっくりと見せてもらった。
その後、3回連続で王様のくじを引いた。すると、某学部長の息子が「イカサマちゃうの?」と言い出したので「実力や」とこたえた。
「運ってこと?」「いや、実力」「てことはイカサマ?」「実力だって」
噛み合わない会話の後で私は種明かしをした。幹事が作ってきた王様ゲームのスティックは前述通り安い割り箸で作られていたため、1本1本、木目が違っていた。私は、隣の奴から王様のくじを借りた時にその木目を覚えただけである。
某学部長の息子は「信じられん」という。他の参加者には、1本1本の木目の見分けが全くつかないのだという。まして、覚えるなんて無理だという。
某学部長の息子は何度か私にくじを引かせてみたが、私が百発百中で王様のくじを引くため、信じざるを得ないという感じだった。
逆に私のほうがその様を不思議に感じて「ていうか、教科書に載っている分子の形とかどうやって覚えてるの?」と尋ねたところ「書いて覚えている」とのこと。「ビタミンB12とかも書いているん?」と尋ねたところ「書いてる」とのことだった。
私は、「そんなんでよく化学なんかやってられるなぁ」と思った。

その後調べたのだが、見たものを見たまま覚える機能(映像記憶)は、ほとんどの人に備わっているが、それを自在に操れる人は殆どいないそうな。
Number」という雑誌があるが、各号どこかに敗者側のインタビューで「彼はその時の光景を今でもはっきりと記憶しているという」という、もはやおなじみの定型句が載っている。
自分の場合は女性の顔ばっかりストックされる。逆に男性の顔はほとんど覚えられないため、例えばTOKIOの長瀬君と松岡君の見分けがつかない。

ユー・ジャパニーズ・ガール

話題がずれてしまうけれども、私のクラスのY君(いつものY君)も先の合コンに来ていて、ある女の子を好きになった。で、彼女をデートに誘おうと彼女のバイト先に出待ちしに行ったのだが、彼女のアルバイト先に行く途上で勇気がなくなったため、ビールを飲んで勇気を出そうとしたらしい。
ところが、ビールを飲みすぎて、ろれつが回らなくなり、しかもアルコール臭いしで、彼女に適当にあしらわれたという。
Y君は傷心のまま帰宅し、私が彼に貸していた「ウゴウゴ・ルーガのピチカート・ファイヴ」というCDを聞きながらワンワン泣いていたそうである。
すると彼の母親が彼の部屋に入ってきて、「こんな曲のどこが泣くほど感動するねん」と言ってきたそうな。
彼の母は「こんなんお母さんでも歌えるわ」と言って、ちょうどかかっていた「Me, Japanese Boy」を歌いだした。Y君はそれを見てさらに泣けてきたそうな。
彼の母はひとしきり歌ったあとで「あほらし」と言って彼の部屋から出ていったそうである。
蛇足だが、Y君は同アルバム内の「失恋したときには「わたしは大人だ、大人なんだ!」と自分に言い聞かせることで乗り越えることが出来る」というセリフを実行して、なんとか心の痛みに耐えたと言っていた。

おめかしして何処どこへ行くの?

隣のクラスに、化粧が派手だけれども化粧が下手な女子がいて、見る度に何か微妙に異なるため、つい、まじまじと見て間違い探しをしてしまうことが度々あった。
すると、その子は私がその子に気があるのだと勘違いして私を露骨に避けるようになった。
その場面を先の合コンの幹事の彼が見ていて「振られてるやん」と言ってきた。今思い返せば、彼と、隣のクラスのその子とは同じ高校の同級生だったが、その情報は今はあまり関係が無かった(どないやねん
「勘違いやねん」と弁明したが、彼は「結局、興味があるってことやろ」と言って、分かってくれなかった。

The taste of first lipstick (2019/09/10 追記)

隣のクラスでは「たぬきさんは化粧している女性が好きらしい」というデマが流れていた。そのだいぶ前に「若いうちから基礎化粧品でケアしていないと、年取ってから後悔するから」と力説した事があり、それも「結局、化粧させたいだけの方便」と取られたらしい。
隣のクラスのTが「たぬきさんは化粧している女性が好き」というデマを隣のクラスの女子に吹き込んだ翌日、隣のクラスの女子3人が初めて化粧して登校して来て、お互い顔を見合わせて笑っていた。
その日はうちの学科の教授の最終講義の日で、うちのクラスで一番可愛かわい女子じょしが退官する教授に花束を渡す役をおおせせつかっており、普段は三編みつあツインテールのあざといファッションなのに、その日だけは予想外に手慣れた感じのナチュラルメイクで登校して来ていた。それを見た隣のクラスの女子3人は「あの子がライバルではかなわない」と勘違いしたのか絶句していた。その3人のうち一番キレイな子は、次の日からまたすっぴんに戻っていた。

Her innocence smashed

学部4回になって配属された研究室の隣のバイオ系の研究室に理学部の修士1回生の女性(以下、Tさん)がおり、この人が不思議ちゃんで、実験中に三角フラスコを持ったまま、うちの研究室に来て、うちの修士1回生の女性の先輩(実は私とは他学科)と長々と立ち話をしてる途中で先輩が「そのフラスコの中身、何?」と尋ねたところ「大腸菌。あっ! 実験してたの忘れてた」といって走って戻っていった。廊下は走るな。フラスコを落として割れたらバイオテロだぞ。しかし、長時間ないがしろにされたその大腸菌は、その後ちゃんと生きていたのだろうか。
で、そのTさんはその春から化粧を始めたようなのだが、これが超絶下手で、全く安定しない。彼女の高校時代の美術の成績が気になるレベルであった。
例のごとく、Tさんの顔をまじまじと見てしまう日々が続いたため、うちの女性の先輩から「あんまりじろじろ見ないであげて」と言われた。このビッチがTさんに化粧を教えたんか、と思った。