甘い恋 v.s. 生活

国公立の大学のスタッフは、大学が直接雇用している職員と、研究室が研究費から人件費を捻出して雇っている職員がいたりする。研究室の秘書の大半は後者に当たる。

かっこいいな あれいいな これいいな 欲しがってばかりのBaby

学部4回の時に配属になった研究室には、短大を出たての新人の秘書が入ったばかりだった。
その秘書は給料をもらっているにも関わらず家計の収支が赤字なので、実家から仕送りしてもらって補填しているという金銭感覚のない子で、かなり可愛いにもかかわらず、研究室内の男性からは地雷扱いされていた。
その研究室は何故かルーズな研究室で、自分は皆勤だったが、修士課程の男性の先輩らは毎日研究室に顔を出すわけではなかった。半年ほど経ったある日、研究室の先輩が私に「あの子、イケると思う?」と訊いてきたので、「最近、彼氏が出来たみたいなんですが、その前だったらイケたかも」と言うと、先輩が「お前、イケると思ってたのに、イかんかったんか!?」と驚いたように言った。私が「バカな勉強もしない子は相手にしないので」というと先輩が「そんなに真面目に考えんでも」と言っていた。
結局、その秘書の子は1年で辞めて、研究所内の他の研究室の研究員と結婚したらしい。辞める前に他の先輩が彼女に「結婚したらどうするん」と聞いたら、彼女はすごく考え込んだ末に「犬飼いたい」と答えたので「やっぱりアホの子やった」と先輩らから後日ごじつ聞いた。

川は流れてゆく 僕の胸に とどまることもなく

とある学部とその隣の学部の化学の研究室がお金を出し合って、共同で1人の女性の事務員を雇っていた。
のだが、その女性事務員は雇い主の1人である、とある研究室の助教授(当時)と不倫の関係にあったそうで、その助教授の奥さんに何者かが不倫関係を密告して不倫がバレ、奥さんは探偵を使って証拠を押さえ、二人を家に呼びつけて正座させて糾弾したという。
その日から女性事務員と助教授は駆け落ちみたいに雲隠れして無断欠勤し、その後解雇となった。
数日後、女性だけ実家に帰って来たので家族がどこで何をしていたのか尋ねたところ、ビジネスホテルでずっと外出せずにいたが、「こんな事こんな事とは?していても何もならない」と思って、助教授に黙ってホテルを抜け出して帰って来たという。
奥さんはそのビジネスホテルに踏み込んだものの、助教授はチェックアウトした後だった。ので、奥さんは助教授が持っているクレジットカードの使用を差し止めたという。助教授はそれでも帰ってこなかった。
事務員の女性は声が高い人だったので、関係のある研究室では飲み会に彼女を誘い、カラオケで彼女に遊佐未森の歌を歌わせるのが恒例となっていた。無邪気そうに遊佐未森の歌を歌っていたあの人が不倫していたなんて、当時の私はかなりショックを受けた。

若かったあの頃 何も怖くなかった

その彼女の代わりに採用された女性事務員は、前任者がそんな事をやらかしたためか、面接時にプライベートなことを根掘り葉掘り聞かれることとなったらしい。
彼女は同棲している彼がおり、しかし彼はまだ博士課程に在学中で、2人は結婚できる状態ではなく、しばらく自分の食費などは自分で稼がなければならないと言ったという。
面接していた教授陣は彼らの学生時代に思いを馳せ、彼らの青春時代と重ねてしまったのだろうか、その話に心打たれて彼女の採用を全会一致で決めたという。なんじゃそりゃ。

街中の働く者 資本を込めた銃を持って 娘のために獲物貯える

次は学部時代の同級生の話。
彼は母子家庭で、学費はほとんど奨学金で賄っていた。
彼は学部4年次に、とある国立の研究所の研究室に配属となった後、博士課程に進んでもその研究室に所属していた。当時は国公立の研究機関へ就職すれば奨学金の返済が免除された(現在は就職先による免除は廃止されているらしい)ため、多分それを狙っていたんだと思う。
その国立の研究所は、文部省管轄下の大学の研究室とは異なり予算が潤沢なので、大概の研究室で秘書が雇われていた。
一見真面目と思われていた彼は意外にも、その研究室の秘書の女性と恋に落ちた。
彼は彼女の父親に会ったが、彼女の父親から「研究者みたいな不安定な職に就くと言っているような者に娘はやれん」と言われた。
彼女の父親は妥協案として、彼に「うちの会社に就職しろ」と言った。
実は彼女の父親は某通信会社の役員で、結局、彼はその条件を飲んで化学をやめて、その会社のグループ会社のD○C○M○に就職した。