ハニーフラッシュ

ハニーフラッシュ Original Love

アドバルーン 見上げて待ってる
ロータリー 待ち合わせてる
気高い ああ 彼女は
ベッドタウン
いちばんのプレイガール

PHS スイッチ切って
あんまり 時間ないのと
微笑わら
オオ・マイ・プッシーキャット!
動く遊歩道の上で 手を握る
地下街を一巡りしたのさ

パートタイムの恋の
ハニーフラッシュで
ロンサムガール
空へ舞い上がれるわけじゃない
目眩めくるめくような恋の
ハニーフラッシュで
ロンサムタウンは何度も
かなしい魔法を信じるのさ

いこういこう マンションヘ
ゆきましょう 愛の巣へ
抱きあおう 泣くのはやめて
静かな火山の見える
ベランダでふたりリラックス
遠く 響く 列車の音
僅かに風がそよぐ 晴れた日

パートタイムの恋の
ハニーフラッシュで
ロンサムボーイは空へ
舞い上かれるわけじゃない
目眩めくるめくような恋の
ハニーフラッシュで
ロンサムタウンは何度も
かなしい魔法を信じるのさ

泣くのはやめろよ
笑っても欲しくない

ハニーフラッシュ 魔法を
ハニーフラッシュ かけるよ
ハニーフラッシュ 魔法を
ハニーフラッシュ かけるよ

「ハニーフラッシュ」はOriginal Loveのアルバム「L」(1999年)に収録されている。
泉谷しげる氏はこの曲を一度聞いただけで「こりゃ町田だな」と分かったそうである。私は南町田駅には行ったことがあるものの、町田駅には行ったことがないのでピンと来ない。
田島貴男いわく、やはり舞台は町田駅とのことで、当時"主婦売春"というものが話題になっていたので曲にしてみたとのこと。そんな曲に需要があると本気ホンキで思っていたのなら、ちょっとどうかしていると思う。

ハニーフラッシュというのは永井豪原作の漫画「キューティーハニー」の必殺技である。このキューティーハニーのアニメ版で主人公キューティーハニーが変身する際に裸になるような表現があって、コマ送り出来る家庭用ビデオデッキが発売された時にキューティーハニーの変身シーンをコマ送りして観たという暇な人が検証した結果、全裸のシーンはなかったということだったが、そりゃ当たり前だろと思った。
話がれかけたけれども、キューティーハニーが変身する際に服を脱ぐというのは、この曲を理解する上でかなり重要な要素であると思う。
他にも解説が必要なワードがあるが、ロンサムは"lonesome"と綴るとうな英単語ではあるものの、日本では1960年代後半から1970年代にかけてよく使われた昭和の死語である。
PHSというものも、この頃は既にすたれ始めている。実はここがこの曲のキーとなっているのだが、この当時にリアルタイムで聴いていないと、ここの表現はちょっと分かりにくい。ここの箇所が示していることはつまり、主婦売春しているけれども、PHSから携帯電話へ乗り替える金銭的余裕はないということである。

好きでもない異性に抱かれることで対価を得るお仕事、いわゆるセックスワーカーにはヒエラルキーがある。
頂点は玉の輿と呼ばれるもので、『金色夜叉』の時代からその存在は知られており、かつ、『金色夜叉』内にて、貫一がお宮に「この売女ばいため!」とののしる場面があることから、玉の輿というものが好きでもない異性に抱かれることで対価を得るものであるという認識はゆるぎのないものであろう。
話がれるけれども、私にも逆玉ぎゃくたまに乗れるチャンスが転がっていたことがあった。表向きは、私の職場の隣の席の人妻が私に「あの人はダメ」と言ったことに私が従ったためとなっている。本音を言えば、逆玉ぎゃくたまであっても、好きでもない異性とエッチすることで対価を得るお仕事なので、結局の所、生理的にエッチが無理な相手とは無理な話なのである。
話を戻して、玉の輿の下には、好きでもない相手と結婚して専業主婦に収まった人々となる。全ての専業主婦がそうであるとは言っていないことに留意してほしい。あくまでも、好きでもない相手と結婚した専業主婦に限定した話である。この曲のロンサムガールはこの層に当てはまる。
その下には愛人というお仕事がある。こちらは、いつまでも続けられるという保証のないお仕事である。裏切られた時の慰謝料や財産分与などもない。また、ここから下層は、やや後ろめたさがつきまとうこととなる。ただし、特定の相手とだけ肉体関係を持てばいいので、これより下層のお仕事とは一線を画している。なぜなら、特定の相手との売春契約は売春防止法の適用外だからである。
その下の層には、AV女優とソープ嬢とがある。どちらが上というわけでもなく、また兼業している者も少なくない。それぞれの職業内での細かいヒエラルキーもある。しかし、そこまでは私も知らないし、今回の話には関係ないので詳説しない。ただ、ひとつだけ付け加えさせてもらうならば、景気が悪くなるとAV女優の質が上がるという現象について。これは、景気が悪くなると、それまで愛人をかこう余裕のあった人たちが経済的余裕がなくなり、愛人契約を打ち切るため、AV女優より上のヒエラルキーの愛人の需要が減って人があぶれ、AV女優に転向するからである。このため、景気が上昇すると逆に、AV女優が身請みうけされて愛人となりAVを引退する女優が続出する。
かつてAV女優の里美ゆりあさんがまだ現役当時に修正申告に応じたという報道があって、4名から5千万円ずつ計2億円を貰っていたことが国税局からバラされた。なお、里美ゆりあさんのその年のAV出演料は4,500万円だったとか。はるか昔に、宇野元総理が芸者さんに 300万/月 で愛人契約を持ちかけたというスキャンダルで失脚したが、バブルの頃だということも頭に入れると、なるほど「ケチ」って言われたわけだ。どっちにしろ、あたしには払えませんけどね。
その下にフリーの、いわゆる立ちん坊と呼ばれる路上に突っ立って声を掛けられるまで相手を待つ人達がいる。これは売春防止法第五条三「公衆の目にふれるような方法で客待ちをし、又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること」に抵触する違法行為である。
最下層がいわゆる管理売春で、売春組織に加わって、売上をピンはねされるという者である。

次に解説しなければならないのが援交ブームについてである。
援交を生み出す装置となった、いわゆるブルセラショップは1993年に一斉摘発を受けて以来、衰退の一途をたどった。
わたしは1993年にはまだ関西の大学生だったので、この頃のことは活字でしか知らない。関西にも新大阪にブルセラショップがあったのは知っていたのだが、残念ながら訪れたことはなかった。
1994年頃に阪急東通商店街の東のハズレあたりにブルセラショップが出来たとのことで、いつものY君と冷やかしに行ったのだが、いろんな摘発があった後の時代に出来たものであるから、その店には想像していたような怪しさはなく、古着も売っているコスチュームショップみたいなものであって、我々の期待ハズレだった。
多分、最初の頃のブルセラショップも、そのような、ただの古着も売っているコスチュームショップだったのだろう。
そもそもの発端が誰だったのかは今となっては分からないが、多分、渋谷で売春を行っていた成人女性が、身分を女子高生といつわったほうが稼げることに気がついたのであろう。手っ取り早く身分をいつわるには高校の制服を着ていればいいと考えたのであろう。そして、そういうふうに女子高生であると身分をいつわるのであれば、有名校のほうが付加価値があると気付いた誰かが、本来男性向けに売られているであろうブルセラショップにある有名高校の制服を購入して、それを着て客引きを始めたようである。この時点では、高校生が援交しているというのは事実と異なるファンタジーであった。
で、援交の利用客と売女の間でトラブルが起こって、利用客が「学校に言いつけてやる」となって学校にチクるも学校側から「本校にはそのような生徒はいません」となり、その辺のからくりが学校側にバレた。が、その学校は生徒や卒業生に「制服を売らないように」としか言わなかったため、何がどうなっているのかは一般人には分からないままで、現役の女子高生が援交しているという認識は打ち消されなかった。
そうこうするうちに、現役の女子高生自身が「みんなやっているから」と勘違いして、本当に現役の女子高生が援交するようになった。もちろん、本気で稼ごうとする娘は自分の高校の制服ではなく、ブルセラショップでわざわざ有名高校の制服を購入したものを着用したりもしただろう。
渋谷近郊では「援交しているのは本物の女子高生ではない」ということを知るものも居ただろうが、少し郊外に行くとそんなことは知らないわけで、関東近郊へ伝言ゲーム状態で話が伝わり、近隣県では現役女子高生が普通に援交するという状況となっていたらしい。
1993年以降、そういう援交ブームは急速に下火となったのだが、私が社会人になった頃に週刊SPA!に、かつて援交を行っていた女性がその過去を隠してOL(死語)になったり、結婚して主婦になっているという記事があった。
そういう世代がこの曲に出てくるロンサムガールの世代なのである。

で、話がPHSに戻るけれども、前述通りここに出てくるロンサムガールは主婦売春しているけれども遊ぶ金しさでやっているのではない。
かと言ってハッピービッチでもないようである。
正直、「主婦売春」というワードを初めて聞いた時に「主婦なのにお金取るの?」と思った。テレクラや出会い系サイトなどを介した出会いでは、当時でも主婦相手にお金を払うというのは珍しかったのではないか。
なお、テレクラは2000年のリンリンハウス放火事件頃までは出会いの場として機能していたが、最大手のリンリンハウスでの事件であったこともあり、男性側の利用者が減るという形で徐々に廃れていった。それはこの作品のリリース後のことであり、ロンサムガールPHSを使っているので、多分、本作内での出会いはテレクラでの出会いなのだろう。当時の出会い系はi-mode掲示板が主だったからである。
ハッピービッチというのは、現在であれば練馬のハッピービッチが有名だが、エッチが好きだからエッチをするのであってお金のためにエッチしているのではないという、誘われたら誰とでもエッチする娘である。
2000年の初め頃に所沢のハッピービッチと話をする機会があって。ていうか、なんでハッピービッチって池袋近郊に出現するんですかね。で、所沢のハッピービッチの本業は某百貨店の化粧品売場の店員で、びっくりするほど美人だったのだが、この娘の話が無茶苦茶で。週末はいつも女性2人と男性3人の友達で乱交していると言っていた。でも仕事柄、休みが友達と合わない時が多くて、そんな時は池袋のテレクラで出会いを求めてるという話だった。
話がれたので戻しますけど、曲中のロンサムガールは「パートタイムの恋の ハニーフラッシュ」をしているので、お金が介在していることになる。泣いているのも、本当はこんな事したくないからであろう。

まだ説明してなかった、もう一つの時代背景にバブルの崩壊がある。
ロンサムガールは主婦に収まり、遊んで暮らせるはずであった。郊外にマンションも買った。
バブル時代のローン金利は高く、かつ、不動産の価値もべらぼうだった。ところが、バブルが弾けて不動産の価値が一気に下がり、ローンの借り換えなどをしても、住んでいる家の価値に見合わないローンは残るし、自宅を売却したとしてもローンを相殺できなくなった。夫の給料も思ったように上がらない。このため、生活がカツカツとなったのだ。かといって、時代は就職氷河期で、ロンサムガールの新しい働き口も見つけにくい。
このためロンサムガールは生活のために主婦売春に手を染めたというのが、この時代の主婦売春のかなしい実態である。人妻系の風俗店もこの頃に増えたが、そのような店を利用していなかった私は、実際は人妻じゃないんだろと思っていたが、この頃はそういう仕事でもしなければローンが返せない人たちがゴロゴロ居たらしい。
もちろん、利用客の方はそんな事情は知らないため、このようなコミックソング調の曲となってしまっている。