以前、ゲームカタログwikiの下書きページに『Analogue: A Hate Story』の記事の下書きを書いていたのですが、ゲームカタログwikiのルールとして企業がパブリッシングしていないゲームは執筆不可というものがあり、『Analogue: A Hate Story』の発売元である "Love Conquers All Games" が企業なのか、個人商店の屋号なのかが分からなかったため記事化を行いませんでした。
そのまま埋もれるのももったいないので、ここで公開しておきます。
Analogue: A Hate Story
【あなろぐ あ へいと すとーりー】
ジャンル | ビジュアルノベル | |
対応機種 | Windows XP以降 Mac OSX(IntelMacのみ) |
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開発・発売元 | Love Conquers All Games | |
発売日 | 2012年4月28日 | |
定価 | 1,010 円*1 | |
プレイ人数 | 1人 | |
備考 | 2014年12月4日に日本語追加 Ren'Py 使用 |
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判定 | なし | |
ポイント | カナダ人女性が描くSF韓流宮廷ドラマ |
覚えておくべき言葉: もし1つだけ覚える事ができるなら、この言葉を覚えておいて。
概要
- 本作のシナリオを書いているカナダ人Christine Loveの学生時代の作品『Digital: A Love Story』の続編とされている。
- 『Digital: A Love Story』はChristine Loveのデビュー作である。
- Christine Loveはゲームを作り始めるまではゲームには興味はなく、それまでは作家を目指していて数編の小説を書いたが全く評価されなかったとのこと。
- Christine Loveのアマチュア時代最後の作品である恋愛シミュレーション『don't take it personally, babe, it just ain't your story』が英国の新聞紙The Daily Telegraphの"video game awards of the year 2011"にて "Best Script"を受賞している。
- 『don't take it personally, babe, it just ain't your story』の後にChristine Loveは本作の制作に取り掛かったが、ゲーム制作と学業を両立できず、大学を中退してLove Conquers All Gamesを設立し、ゲーム制作に専念することにした。
- Love Conquers All Gamesとしては本作がデビュー作となる。アマチュア時代は lily of the valley games 名義であった。
- 『Digital: A Love Story』はChristine Loveのデビュー作である。
- 本作の韓国向けタイトル『아날로그』は「アナログ」の音写である。
- どこのレーティング機関にも審査を申請していないようだが、テキストながらログ内に性行為の描写があり、R-18は免れえないであろう。
ストーリー
25世紀、人類は宇宙空間にコロニーを確立させるべく、宇宙船を発進させた。しかし、それは目的地に達することなく、あらゆる交信を絶ち、姿を消してしまった。その宇宙船무궁화*2が再び発見されたのは、数千年後のことである。
死者が遺したログを読み解き、漂流する宇宙船ムグンファで何が起こったのかを明らかにしよう。
(Steamのショップページより)
- 宇宙船ムグンファは統一韓国(首都は平壌)の所有物だった。
- 船内に残されたログは317年から322年にかけての船内の人間が死に絶える直前のものが多いのだが、そもそもムグンファが地球を旅立ってから数千年経っているのに、AI曰く今が600年ぐらいというのが、まずおかしい。
最終的に船内の人々が死に絶えたときは皇帝がいる独裁の貴族制国家だったらしい。
どうやら船内で革命が起きたせいで年号がリセットされたようである。そして、その時期にそれ以前のすべてのデータが消去され、地球を旅立ってから数千年間のデータは残っていないとのこと。
そして船内の文化はどんどんと退行し、李氏王朝時代の風習に先祖返りしていた!
- 船内に残されたログは317年から322年にかけての船内の人間が死に絶える直前のものが多いのだが、そもそもムグンファが地球を旅立ってから数千年経っているのに、AI曰く今が600年ぐらいというのが、まずおかしい。
システム
- 選択肢が存在するADVである。
- Goodエンディングは5種類あり、AIから通信を切断されるなどのバッドエンドもそこそこある。
- ゲーム開始直後はコマンドコンソール画面であり、キーボードからコマンドを入力する必要がある。
- AI起動後はAIが示してくるアイコンをクリックすることになる。
- AI起動後も、コマンドコンソール画面からコマンド入力しなければならない場面はある。
- AIのHyun-aeはコマンドコンソールにてchange_outfitコマンド使用で服装を変更可能である。
- 88件ものログ(大半は日記。まれに書簡)を読むことになる。
- 読んだログをAIに「見せる」ことによって、AIがそのログに関連した別のログを提示してくる。
あるいはそのログが書かれた当時の出来事の記憶、もしくはAIが感じたことを話すだけのこともある。- 未読のログが多いと、AIから先にログを読み進めるように言われる場面もある。
- 同時に開示されるログ同士は関連してはいるものの、既に公開されているログとの時系列はグチャグチャで、提示される内容も断片的であることから、本作はテキスト主体ではあるものの、プレイ感は『serial experiments lain』を彷彿とさせる。
- ログ確認中にAIがプレイヤーに話したいことがあると、ログ画面下の吹き出しのアイコンが点滅する。クリックするとAIとの対話モードになる。
- 「ID検索機能」があり、ストーリーの進行状況に関わらず既にファイルIDが判明しているログを出現させるプレイヤーチート機能となっている。
- これを使わないとTrueエンドには到達しない。
- 読んだログをAIに「見せる」ことによって、AIがそのログに関連した別のログを提示してくる。
評価点
- ストーリーは凝っている
- どのエンディングにも慣れれば1時間以内で到達できるが、それでもGoodエンドが5種類用意されており、作り込みが細かい。
- Badエンドも「AIから嫌われて接続を解除される」など複数ある。
- 本当にカナダ人が書いたのかと疑うぐらいの韓流宮廷ドラマっぷりである
- 脚本を描いたChristine Loveはゲーム内のテキストにて本作の制作に至った動機を以下のように書いている(日本語版日本語訳文)。
- どのエンディングにも慣れれば1時間以内で到達できるが、それでもGoodエンドが5種類用意されており、作り込みが細かい。
何人もの方に、訊かれました。「なぜカナダ人が韓国の歴史についてのゲームを作ったんですか?」と。
私は常に、世界の歴史のいろいろな側面に惹きつけられてきました。
李氏朝鮮について学んでいたとき、その社会での女性の扱われ方について非常に衝撃を受けました。私自身、一人の女性として(しかもレズビアンとして)そのような時代に生きることは想像もできませんでした。
しかし「そんなのって想像できない!」で終わらせるのは、ある意味とても怠慢な答えなのではないかと思います。
当然、この時代の女性もなんとかその時代を生き抜き、複雑な人生を送り、自分たちの面した問題を乗り越えていく方法を見つけていったのです。「そんなのって想像できない!」とは私達にとって理解できないというだけで、そこで終わりにするのは、その女性たちの生き様をないがしろにしている気がしたのです。
ログテキストには、事件当時の人々の前近代的な言動や、勢力争い、買春や近親相姦、同性愛などの貴族らの退廃的な堕落が醜く描かれている。
事件が起きなくとも、帝国はまもなく滅んでいたであろうことを管理AIもうすうす予想していた素振りを見せる。
- BGMが良い
- BGMはテクノ調でまとめられており、シンプルであることで宇宙空間の虚無感がある一方でサイバーな香りもするため、本作の雰囲気と合っている。
- 特にムグンファの原子炉が不安定になった時のBGMはその場面に即したものとなっており、うまく表現できている。
問題点
- 画面が殺風景すぎる
- CGが少ない
- ログの内容はなかなかのインパクトのある下世話な話なのであるが、画面は無機質なログテキストが表示されているだけであり、やや物足りない。ほんの数枚でもそれらの情景のCGがあれば良かったのではないか。
- 価格的に比較してよいのかは微妙だが、本作と同様に宇宙空間で居住者が連絡を絶った施設を調査する『Tacoma』では乗組員が残した手書きのメモなどが残されており、かつての生活感を感じさせている。
そこまでの労力を求めるのは酷かもしれないが、特定の人物の書いたものには何らかの装飾を施すなどの工夫は出来たのではないか。
- CGが少ない
- コマンドコンソール画面の操作がやや難しい
- バッドエンド後に最初からやり直す手間が大きい。
- スキップ機能はあるものの、使えるのはAIとの会話だけであり、ログを読まないと進まない場面では内容を覚えていて再度読み返す必要がなくとも、ログを開いて既読にする手間が必要となる。
総評
船内の人間がどうなったかを調査せよと言われてやってきて、AIから最初に提示されるログのほとんどがキム家という一族の私的な日記類であることに面食らう。そもそも、AIの名前が依頼主から聞いていたものと異なる。果たしてこのAIは一体何者で、何が目的なのか?
作者が本作で本当に読ませたいのは、宇宙船内の顛末のストーリーではなく、かつての朝鮮王朝時代の男尊女卑の風習についてである。その伝えたいことを堅苦しさを出さずに、ちゃんとエンターテインメントに落とし込んでいる点は評価できる。
このため、SFなのに韓流宮廷ドラマという変な設定を面白がるぐらいの軽い気持ちでプレイできるように仕上がっている。