つまり夢は 選べないしろもの

それは神の御業みわざ どうにもならないこと

ノーベル賞も狙えると言われた同級生のA君の話。
彼は学部4回生の時に配属になった研究室の担当教授にその才能を認められ、教授から「ドイツの国立の研究所にA君を推薦したい」という話が持ち上がった。
A君は実はオーストリア人からドイツ語会話を習うなどして入念にドイツ語の勉強をしていたのだが、謙遜して「ドイツ語が話せずに向こうで餓死したりしませんかね?」と言った。すると教授は「ドイツは9月からが新学期だから、4月からドイツに渡ってまずは日常生活に慣れるといい。うちの娘はドイツ語が話せるから大丈夫だ」と言ったそうな。
最後の言葉に違和感を覚えたA君は「お嬢さんはドイツ語が話せるのですか?」と尋ねたという。実は大学の人間はその教授のプライベートのことをほとんど知らなかったため、娘さんがいるという事すら知られていなかった。
教授は「娘は大阪外語大学のドイツ語専攻にいて、君と同じく今年卒業なのだが就職先が決まらなくって困っていた」と言ったという。
A君はドイツの留学と教授の娘さんとの結婚がセットだと気づき、その留学の話を即座に丁重に断ったという。娘さんの顔知ってからでは失礼に当たりすぎるから、その場ですぐに断ったそうだ。
後で、口の軽い某教授に聞くと「そういえば娘さんの就職が決まらないと教授会でぼやいてた」と言っていたが、それ以上のことは知らないとのことだった。

結局、A君はその研究室に居辛くなり、他の研究科に進学した。
彼が必死に勉強したドイツ語は結局、その研究科の院試でしか役に立たなかったそうな。
その騒動を聞いた情報処理教育センターの教員の人からA君に「いっそ、情報系の研究室に進学しないか」と誘いがあったそうだが、A君「あと2年だけ化学をやりたい」とそちらも断ったそうだ。
そして、A君は2年後、本当に化学をやめてしまった。同級生のN君がA君に「おまえが化学を辞めることが、人類にとってどんだけの損失になるか分かっているのか!」と説得したが、A君は「自分がやらなくても、誰かがやるさ」と言っていたという。
どうでもいいが、N君の発言はいつも熱くて、ドラマのセリフみたいで聞いているこっちが恥ずかしくなる。

なお、A君は当時、隣のクラスの主席の女の子が好きだったのだが、その後結局フラれたらしい。色々と救われない話である。