月の爪

月の爪 ムーンライダーズ
作詞&作曲: 鈴木博文

照らされた爪 考える月
じりながら 落ちてゆく夏
かたむく夜に だきしめ合った

胸の奥の白い空き地に 柵をたててきみを飼いたい
豚のように

橋の上を吹き抜ける 風は窓をきしませて
きみの骨がささやいた 充分な愛などないと

切り刻まれた 夜をつないで
きみは今も 座り続ける
脚のない椅子 ドアのない部屋

朝に開く乾いた花 ぼくはシャツのボタンをかける
ついてゆけない

テレビをつけ出てゆくよ きみはここにいればきみ
時計を壊してゆくよ きみはいつまでもきみ

橋の上を吹き抜ける 風は窓をきしませて
きみの骨がささやいた

「月の爪」はムーンライダーズのアルバム「A.O.R.」(1992年)および、鈴木博文によるカヴァー・アルバム「SINGS Moonriders」(1996年)に収録されている。
「A.O.R.」収録の方は兄の鈴木慶一氏のヴォーカルとなっている。パイプオルガンが印象的な、重厚なテクノサウンドによる幻想的なアレンジは神々しさすら感じる。まさにムーンライダーズでしか作れない楽曲と言っても過言ではないだろう。
「SINGS Moonriders」収録の曲のうち「インテリア」は聴く価値があると思われるが、他の曲は鈴木博文氏のヴォーカルの調子が悪いと感じる。「さよならは夜明けの夢に」及び「モダーン・ラヴァーズ」のアレンジは原曲を越える可能性も秘めていたのに、もったいない。

表題の意味するところは、月に照らされた女性の爪で異論はないだろう。まだネイルサロンが一般的ではなかった頃の曲ではあるが。
歌詞は、そこにとどまるという選択しか出来ない女性を名残惜しくも見捨ててゆく、という情景だろうか。価値観の合わない女性とのもどかしさと葛藤が感じられる。「充分な愛などない」と言ってるのだから現実主義な女性なのであろう。「脚のない椅子」は椅子に脚があってもそれで歩いてどこかへ行くわけではないけれども、そもそも脚が無いのであれば、まして動くはずもないということだろうか。「座椅子かな?」と思った人は反省するように。

変わった曲の構成となっていて、「胸の奥の白い空き地に 柵をたててきみを飼いたい」および同じメロディーの「朝に開く乾いた花 ぼくはシャツのボタンをかける」のメロディーが曲中で一番高い音が使用されている。つまり、ここがいわゆるサビである。この部分はサビであるのだからメロディーに高揚感があるためアレンジは控えめで、そこから先の部分は失速を感じさせないように手厚くアレンジされているように見受けられる。